Vol.14 うつ病かもしれない⁉と思ったら
うつ病とはどんな病気なのでしょうか?
うつ病とは、気分の落ち込みや物事を楽しめない状態が長く続き、生活に支障をきたしてしまう病気です。脳の神経伝達物質と呼ばれるホルモンのバランスが崩れた状態が原因の1つであると言われています。いつもと同じように仕事や家事、勉強などが捗らなくなることが多く、自信を失ってしまったり、そのこと自体がさらなるストレスになるため、「何もかもうまくいかない」「すべて自分の責任だ」「自分はダメな人間だ」等と、ネガティブな思考にとわられやすくなります。また、くよくよと考え込んでしまうことで眠れなくなりがちです。その結果、身体も脳も疲れが溜まった状態となり、体調も崩れやすくなります。
「うつ病」と「うつ状態」は違うの?
うつ病、抑うつ状態、うつ状態、うつ、抑うつなど、うつ病に関連する表現の仕方はたくさんありますので、混乱しやすいかもしれません。私たち医師は「うつ病」という病名を付ける際には、診断基準を参考にし、症状の持続期間やそこに至るまでの経緯、重症度等を検討したうえで、安直な診断にならないよう心掛けています。
一方で、「抑うつ状態」という表現は、ある程度気分の落ち込みやゆううつな気分が続いた状態であれば、状態を表す言葉として用いることができます。このため、うつ病の患者様の状態を説明するときに使うだけではなく、適応障害や不安症、躁うつ病、統合失調症などうつ病以外の疾患をお持ちの方が落ち込みやゆううつさを自覚された場合でも、診察の中で「抑うつ状態」「うつ状態」といった表現が用いられることがあります。
うつ病の診断基準とは?
ここでは『DSM-5』という、アメリカ精神医学会が出版している、精神疾患の診断基準・診断分類をもとにお話していきましょう。DSMの正式名称は「精神疾患の診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)」ですが、頭文字を略してDSMと呼ばれています。
DSMは、精神医学の研究や治療を行っている人に向けて作成されており、精神疾患の基本的な定義などを示したものです。もともとはアメリカでつくられたものではありますが、国際的に利用されていて、日本でも精神疾患の診断に用いられています。
この診断基準にはどんな項目があるのでしょうか?
うつ病(大うつ病性障害)の診断基準(DSM-5)
以下のA~Cをすべて満たす必要がある。
A: 以下の症状のうち5つ (またはそれ以上) が同一の2週間に存在し、病前の機能からの変化を起している; これらの症状のうち少なくとも1つは、1抑うつ気分または 2興味または喜びの喪失である。 注: 明らかに身体疾患による症状は含まない。
1. その人自身の明言 (例えば、悲しみまたは、空虚感を感じる) か、他者の観察 (例えば、涙を流しているように見える) によって示される、ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分。注: 小児や青年ではいらいらした気分もありうる。
2. ほとんど1日中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動における興味、喜びの著しい減退 (その人の言明、または観察によって示される)。
3. 食事療法中ではない著しい体重減少、あるいは体重増加 (例えば、1ヶ月に5%以上の体重変化)、またはほとんど毎日の、食欲の減退または増加。 (注: 小児の場合、期待される体重増加が見られないことも考慮せよ)
4. ほとんど毎日の不眠または睡眠過多。
5. ほとんど毎日の精神運動性の焦燥または制止 (ただ単に落ち着きがないとか、のろくなったという主観的感覚ではなく、他者によって観察可能なもの)。
6. ほとんど毎日の易疲労性、または気力の減退。
7. 無価値観、または過剰あるいは不適切な罪責感 (妄想的であることもある) がほとんど毎日存在(単に自分をとがめる気持ちや、病気になったことに対する罪の意識ではない)。
8. 思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日存在 (その人自身の言明、あるいは他者による観察による)。
9. 死についての反復思考 (死の恐怖だけではない)、特別な計画はない反復的な自殺念慮、自殺企図、または自殺するためのはっきりとした計画。
B: 症状は臨床的に著しい苦痛または社会的・職業的・他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
C: エピソードが物質や他の医学的状態による精神的な影響が原因とされない。
精神疾患の診断・統計のマニュアル アメリカ精神医学会 Washington,D. C.,2013(訳:日本精神神経学会)
お一人おひとりの患者様に上記の診断基準のそれぞれの項目が該当しているかは、専門家が判断する必要があります。また、一見うつ病のような状態であっても、その背景に別の要因があったり、別の疾患が併発しており(例えば統合失調症や不安症、発達障害、親子間の葛藤やDV等)、それらによる生活上の苦痛や困難感が強いがために抑うつ状態に至っているケースも多々あります。その場合は原因となっている事柄を整理し、あるいは見つけ出し、適切な治療や環境調整、社会的な支援などに繋げていくことも同時に検討する必要があります。
専門的な知識や理解をもとにしたご対応や、患者様をサポートする上で職場や学校、行政に提出するための書類の作成等が役に立つことも多いため、つらいと感じているときは自己判断に頼り過ぎないことも大切です。診断基準の項目を参考にしていただき、ご自身の状態に合うキーワードがいくつかあると思われた場合には、受診してご相談下さい。(O)
2022年7月8日 うつ、不安