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Vol.10 マインドフルネスと医療

英語で「mindfulness」という言葉は「心を配っている = 意識を向けている状態」を指します。マインドフルネスとは、端的に言うとすれば「 “今、この瞬間” を大切にする生き方」のことです。

前回、ぐるぐる・もやもやと考え悩むこと、つまり「心がさまよっていること」による過剰な脳のエネルギー消費を減らすためには、マインドフルネスを学んでいくことも効果的であるとお伝えしました。

しかし、マインドフルネスという言葉や瞑想といった手法に対しては、半信半疑に思われる方もいらっしゃるのではないかと思います。何を隠そう、筆者も、アメリカに留学していた数年前、友人から「瞑想をしている」と聞いた時には「本当に意味があるのだろうか」と感じたからです。医学的な視点で詳しく学んでいくうちにその気持ちは覆ることになるのですが、知識のない状態ではなかなか理解しがたい部分もあるのではないかと思います。

米国医療現場でのマインドフルネス

そこで、皆さんにぜひ知っていただきたいのは、医療におけるマインドフルネスのベースには、米国マサチューセッツ大学医学部の分子生物学者ジョン・カバット・ジン博士が開発した『マインドフルネスストレス低減法(mindfulness-based stress reduction: MBSR)』、およびマーク・ウィリアムズ博士らが開発した『マインドフルネス認知療法(mindfulness-based cognitive therapy: MBCT)』という確立された手法があるということです。

マインドフルネスストレス低減法 MBSR

MBSRはそもそも、ストレス関連の身体の不調、例えば慢性疼痛、高血圧、頭痛などの症状を改善するためのプログラムとして開発されました[1,2]。レーズン瞑想、呼吸法、静座瞑想法、ボディスキャン、ヨーガ瞑想法、歩行瞑想法、日常瞑想訓練などの練習を重ね、意識的に「今」に注意を向けることでネガティブ思考の悪循環から抜け出しストレスに対処する力を伸ばしていく8週間のプログラムです。

マインドフルネス認知療法 MBCT

一方MBCTは、MBSRの技法と認知療法の技法を組み合わせたもので、ある程度安定した状態のうつ病の患者さんを対象に開発されており、うつの悪化を予防するスキルを学んでいきます[3]。MBSRの中の様々なエクササイズに加えて、3分間呼吸空間法や、認知療法で使用される「できごと日誌」や「うつの具体的な知識を学習する」等が取り入れられています。

こちらのプログラムでは、「不快な気分や感情をなくす」ことを目指すのではなく、あるがままの自分を受け止めていきます。何にどのように注意を向けるか、不安な事柄と上手に距離を置いて対処する術を学ぶため、自責的になりやすい方や、不安症の方、ストレスを感じると落ち込みやすい方にも役立ちます。実践を重ねるうちに、頭の中で思い悩んでいたことは現実ではないことに気付けるようになり、自分を大切にする方法などを身につけることができます。

ストレスの軽減、集中力の向上などにも効果がある瞑想法はいつでも1人で取り組むことができ、特別な道具等も不要なため、習得すれば病気の有無を問わず、多くの方にとってとても便利なツールとなり得るのではないでしょうか。

私の外来では、これらの治療法が役立ちそうだと思われる患者様については、米国の大学付属病院などで使用されているわかりやすいワークブックの日本語版などを併用しながら、一緒に取り組んでおります。

ぐるぐると同じことを考え続けてしまう、つい自分に厳しい目線を向けて追い込んでしまう、四六時中不安を感じている、という方は、お薬の治療のみならずこういったメソッドを用いてご自身の対処力を伸ばしていくことが大きな力になります。(O)

1. Kabat-Zinn J (2013). “Full Catastrophe Living: Using the Wisdom of Your Body and Mind to Face Stress, Pain, and Illness.” New York: Bantam Dell.

2. Kabat‐Zinn J. (2003). “Mindfulness‐based interventions in context: past, present, and future.” Clinical Psychology: Science and Practice. 10 (2): 144–156.

3. Teasdale, J. D., Segal, Z. V., Williams, J. M. G., Ridgeway, V. A., Soulsby, J. M., & Lau, M. A. (2000). “Prevention of relapse/recurrence in major depression by mindfulness-based cognitive therapy.” Journal of Consulting and Clinical Psychology. 68(4), 615–623.

2022年6月2日  うつ、不安